資産管理会社の活用…メリット・デメリットを確認しよう!
1.所得税と法人税の税率構造の違い
⑴ 所得税も法人税も所得に対する税金であることは同じ
個人、すなわち我々生身の人間が得る稼ぎについては「所得税」という税金が課せられるのに対して、法人、すなわち会社組織が得る稼ぎについては「法人税」という税金が課せられます。
同じ1年間(個人については1月1日から12月31日までの単位、法人については任意の時期に決算期を設定できます)に得た稼ぎであっても、個人と法人では課せられる税金の名前に違いがありますが、名前が異なるだけではなく、その稼ぎ(「所得」といいます)に対する税率やその税率構造にも違いがあります。
すなわち、同じ不動産物件を賃貸することにより得られる所得であっても、その主体が個人であるか法人であるかによって、税額の大小まで変わってくることになります。
⑵ 所得税の税率構造
(注)夫婦と子2人(片働き)の給与所得者で、子のうち1人が特定扶養親族、1人が一般扶養親族に該当する場合の給与収入金額である。
(出典:財務省ホームページ(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/b02.htm))
不動産を賃貸した場合の稼ぎである不動産所得は、給与所得などとともに合算されて、そこから各種の所得控除を差し引いた上で、上記の7段階の税率構造に当てはめて所得税を算出します。
上記の税率構造を見ると、所得が増えれば増えるほど、高い税率が適用されることがわかります。
換言すれば、
- 所得が増加すれば、もっとも高い税率区分に加算されて急速に税額が増える
- 所得が減少すれば、もっとも高い税率区分から減少されて急速に税額が減る
ことがわかります。
⑶ 法人税の税率構造
一方、法人税の税率構造は単純で、どれだけ所得が増えようとも(2019年4月1日以後開始事業年度は)23.2%の一律の税率が適用されます。
資本金1億円以下の中小企業における年800万円以下の所得については、例外的に15%が適用されるという仕組みもありますが、これを併せても2段階(地方税である事業税を加味しても3段階)しかありません。
⑷ 所得が増加すれば法人が有利
⑵⑶はいずれも国税部分のみであり、上記に加えて、⑵には一律10%の個人住民税が加算されますし、⑶には所定の法人住民税・事業税などの諸税が加算されます。
地方自治体によって異なる住民税を含めた負担割合としては、
- 所得税の税率は15%(所得税5%+住民税10%)から55%(所得税45%+住民税10%)までの7段階
- 法人税の税率(法定実効税率)は中小企業で25%弱、それ以外で35%弱
となり、
- 所得が相対的に少なければ個人形態の方が適用税率が低い
- 所得が相対的に多ければ法人形態の方が適用税率が低い
傾向があります。
そうすると、給与所得などの経常的な所得がそれなりの水準(例えば法人税の税率水準以上)で発生する個人の方が、新たに不動産賃貸経営に参入しようとしても、法人税の税率よりも相対的に高い所得税率が適用されて、手取りは思うように増加しないといったことが起こり得ます。
むしろ、新たに不動産賃貸経営に参入するのであれば、
・賃貸不動産を取得する主体としての法人を設立して法人名義で経営をする
・個人で不動産賃貸に経営参入するものの不動産管理のための法人を設立して所得を分散する
といった形態を検討する方が、所得税と法人税の税率差という点では賢い選択であるといえるでしょう。
2.不動産管理会社とは
⑴ 賃貸不動産の管理のための法人
上記の2つの形態のうち簡便に対処できるのは、後者の「不動産管理のための法人」すなわち不動産管理会社を設立して賃貸管理を当該会社に任せ、管理料という名目で法人に所得を分散させる形態でしょう。
なぜなら、前者の法人名義で不動産賃貸経営をするとなると、法人を設立するための出資金が多額になることや、個人から法人に既存の賃貸不動産を移転させるといった大掛かりな取引をすることになるとともに、名義を移転する場合に登録免許税や不動産取得税といった新たな税金を負担しなければならなくなるからです。
⑵ 会社形態をどうするか
現在、法人を設立する場合には、通常は、
- 株式会社
- 合同会社
のいずれかから選択することになり、両者とも資本金は1円以上で設立できますが、両者は似て非なる会社形態ですので、それぞれのメリット・デメリットを比較した上で、オーナーである自己にとってメリットを享受しやすい形態を選択するのが良いでしょう。
① 株式会社
<メリット>
- 一人前の会社としてのイメージを持たれやすく信用力としては合同会社よりも高い。
- 相続による承継が円滑にできる。
<デメリット>
- 設立コストが25万円程度必要である。
- 定期的に役員改選を行う必要がある。
② 合同会社
<メリット>
- 設立コストが6万円強で済む。
- 基本的には役員改選を行う必要がない。
<デメリット>
- プライベートカンパニーとしてのイメージが強く信用力としては株式会社よりも低い。
- 相続による承継を当然の前提としていない。
3.不動産管理会社のメリット
⑴ 個人との所得分散ができる
不動産管理会社は、賃貸不動産のオーナーである個人が本来すべき管理業務の一部又は全部を引き受け、それに対する報酬を得ることによって経営することになります。
不動産管理会社を設立して業務を委託しなければ、賃貸収入から賃貸原価を差し引いた不動産所得の全てが個人に帰属することになり、元来所得水準の高い方であれば相対的に高い所得税率が適用されることになります。
しかし、不動産管理会社に管理料を支払うことによって、個人に帰属していた不動産所得の一部を法人に分散させることができ、法人は所得の水準にかかわらず一律の税率が適用されますから、所得税と法人税の税率差の部分について、法人・個人を合算した税金によるキャッシュアウトが減少し、その分手取りが増加することになります。
⑵ 経費計上の範囲が広がる
例えば、賃貸不動産を経営する個人がいくら活動しても、自分に対して給与を支給してそれを必要経費にすることはできません。
また、親族が不動産管理を手伝っても、所得税法においては事業専従者給与の支給に一定の制限が伴います。
一方、不動産管理会社を設立した場合には、オーナーが法人に管理料を支払い、法人は役員であるオーナーや親族に対して役員報酬や従業員給与を支給して経費とすることができます。
また、個人は必ずしも商売のために生活しているのではない前提があるのに対し、法人は全ての行為が商売のためという前提があるため、経費として計上できる範囲が個人よりも幅広い傾向にあります。
⑶ 利益調整が比較的柔軟にできる
不動産賃貸経営において損失が発生した場合、個人はその繰越が3年間に限定されるのに対して、法人は10年間の繰越ができるため、将来的に所得が発生した場合に、過去の損失を充当する機会を得やすいという違いがあります。
また、個人は不動産賃貸収入から控除する建物等の減価償却費を強制的に計上させられますが、法人の減価償却費の計上は任意であり、所得が発生しない事業年度には計上を見送る(所得が発生する事業年度まで温存する)ことによって、損失の垂れ流しを回避するといった調整を行う余地があります。
⑷ 短期売買の税率が低い
所有する賃貸不動産を譲渡する場合、個人は所有期間が短期の場合には高い譲渡所得の税率が適用されることになりますが、法人は所有期間によって税率に違いはないため、機動的な譲渡の意思決定をすることができます。
⑸ 社会保険に加入できる
法人は社会保険(健康保険・厚生年金保険)の強制適用事業所となり、役員報酬・従業員給与を受ける者は社会保険に加入することになります。
例えば、健康保険について、個人事業主は原則として国民健康保険に加入することになりますが、所得水準によって保険料が跳ね上がり、早々に上限の99万円(令和3年度・介護保険料を含む)に達してしまうケースも少なくありません。
この点、不動産管理会社で社会保険に加入し、役員報酬を低く抑えることで、健康保険料の負担を抑制することができます。
一方、社会保険に加入すると、国民年金保険から厚生年金保険に切り替わり、年金保険料の負担が増すことも考えられますが、年金保険は高い保険料を支払えば将来的な給付が増加するのに対して、健康保険は掛け捨てであり、高い保険料を支払っても受けられる医療給付の水準は同じであるため、同じ社会保険料を支払うのであれば、健康保険料を抑制する選択肢を採った方が賢明であるともいえます。
4.不動産管理会社のデメリット
⑴ ランニングコストがかかる
法人は、損失が生じている事業年度においても「均等割」という税金が最低でも年間7万円必要です(個人にも均等割はありますが年間5,000円程度です)。
また、法人税の申告は、所得税のように素人が何とか対処できるというレベルではなく、税理士に作成を依頼することが事実上必須となり、法人税申告報酬として(不動産管理会社の規模に応じて)数10万円のコストが新たに発生することが想定されます。
そうすると、これらのランニングコストを上回って余りあるメリットが継続的に得られる見込みでなければ、不動産管理会社を設立して所得分散しようとしても費用倒れに陥ることになります。
⑵ 管理料の水準設定が難しい
オーナーである個人と不動産管理会社である法人は別人格であるといえども同族関係であり、管理料の水準は事実上自由に設定できます。
しかし、法人に所得分散しようとするあまり、常識的な(世間的な)相場水準を上回る管理料を収受すると、税務署から租税回避の認定を受けることにより、管理料の否認による所得税の追徴と加算税・延滞税の支払いというペナルティを受ける可能性があります。
管理料に限らず、同族関係者間の取引については、細心の注意を払って金額水準を検討し、その根拠を可能な限り明らかにしておく必要があります。
5.不動産管理会社のデザインは税理士に相談しよう
これまで見たように、不動産管理会社は、高額所得者に適用される高い所得税率をフラットな法人税率に置き換えることによって個人・法人全体としての節税を図るためには有用なスキームであるといえるでしょう。
しかし、不動産管理会社がオーナーである個人と同族関係にある以上、両者間の取引に経済合理性が確保されたものであるか否かの検討が不可欠であり、オーナー個人の限られた経験の下でそれを判断することはかなり難しいものです。
不動産管理会社の運営には、個人と法人を併せたキャッシュフローの最大化のために、
- 管理料を賃貸収入の何%程度に設定するか
- 役員報酬をどの程度に設定するか
- 税金のシミュレーションに検討漏れはないか
- どの程度のグレードの賃貸不動産を取得(建築)すれば採算が合うか
- 法人のランニングコストを上回るメリットが恒常的に発生するか
といった各種変数を基にした「最適解」を見つけることが必要であり、かつ、それが税務上否認される可能性が低いとの心証が得られなければ実行できません。
上記のような不動産管理会社のデザインをする専門家として税理士以外に誰が適任でしょうか。
個人・法人全体としての節税を図るためには、構想の初期段階から信頼できる経験豊富な税理士の関与を受け、ともに伴走してもらうことが何より必要なのです。
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