減価償却とは…他の必要経費と異なる特徴を徹底解説!
1.減価償却の概要
事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過等によってその価値が減っていきますが、このような資産を減価償却資産といいます。
減価償却資産の範囲は、建物や車両運搬具などの通常我々がイメージする耐久資産に限らず、牛・馬・豚といった動物や、柑橘・林檎・オリーブといった樹木も含まれ、それぞれに使用可能期間(法定耐用年数)が定められています。
他方、土地や骨とう品などのように時の経過により価値が減少しないとされる資産は、減価償却資産ではありません。
減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものです。
この使用可能期間に当たるものとして、法人税法・所得税法における法定耐用年数が後述の財務省令の「別表」という箇所に定められています。
このように、減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続のことをいいます。
2.なぜ減価償却をするのか?
事業者が消耗品、例えば、少額(具体的には10万円未満)の電化製品や事務用品を購入した際には、その購入した時期にその購入した価額をもって「(事務用)消耗品費」などという勘定科目で必要経費に計上しますが、多額又は使用可能期間が長期に及ぶ場合には、そのようにすると会計上・税務上の不都合が生じます。
例えば、新しい製品を製造するための機械装置を1,000万円で購入したとしましょう。
購入した年分にその購入費用1,000万円を全て必要経費とした場合、1年目は極端に業績が悪化し、2年目以降は一転して好業績になります。
しかし、新しい製品を製造するその機械装置の効用は、1年目も2年目以降も同じであるはずです。
そうすると、その機械装置が稼働できる期間(使用可能期間)にわたって、1,000万円という購入費用を配分し、新しい製品の売上に対応して必要経費にしていく方が合理的ですし、その資金を融資する銀行などもその企業の業績を正しく判断することができるでしょう。
このように、減価償却は、企業の期間損益計算を適正にするために行う会計上の計算技術といって良いでしょう。
3.減価償却費の自己金融効果
(図1)によると、減価償却資産を取得するのに資金を支出するのは購入時(1年目)のみであるのに対して、2年目以降は、必要経費のみ計上されてそれに見合う資金の支出は行われないことにお気づきでしょうか。
通常の消耗品の支出のように支出時に一時に必要経費にすることと比較すれば、「必要経費とするのに資金が支出されない」ということは、その支出されるはずであった資金が企業内に蓄積されているという捉え方ができます。
こういった考え方を「自己金融効果」といい、減価償却費の累計額に見合う資金が企業内に蓄積され、使用可能期間が経過した時点で新たな固定資産を購入するための資金の蓄積が完成されるため、取替更新のための減価償却資産に対する投資資金を獲得することができるというものです。
しかし、注意しなければならないのは、減価償却費の累計額に見合う資金が企業内に蓄積されるといっても、それに見合う「現金」が実際に存在するとは限らないことです。
実際に、他の経費の支払いや商品の仕入などに現金を使用してしまうことが考えられ、別途に現金の積立などをしていない限り、減価償却費の累計額に見合う現金が蓄積されることの保証はありません。
また、減価償却費の累計額に見合う現金を蓄積していたとしても、全く同じ性能の減価償却資産を購入できるとも限りません。
これは、減価償却資産は2年~50年と長期間にわたり使用するものであり、取替更新時には物価変動の影響などによって、同じ性能の減価償却資産であっても価格が高くなることが考えられるためです。
こういった減価償却の「自己金融効果」は、あくまでも減価償却費の累計額に見合う金額について「何らかの資産が蓄積されている」という概念的なものですが、こういった考え方は、企業の経営計画や資金繰りを策定するような場合には考慮しておくべき重要な考え方です。
4.減価償却資産の取得価額
減価償却の基礎となる価額は、原則として、その資産の取得価額であり、取得価額は、その取得形態に応じて、次の金額の合計額によることとされています。
購入
- 購入代価の額
- 引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他の減価償却資産の購入に要した費用の額
- その減価償却資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
自己建設
- その減価償却資産の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額(いわゆる製造原価の額)
- その減価償却資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
牛馬等・果樹等
- 購入価額(引取費用等を含む)又は種付費及び出産費並びに種苗費の額
- 成育(成熟)させた牛馬等(果樹等)の成育のために要した飼料費(肥料費)、労務費及び経費の額
- 成育(成熟)させた牛馬等(果樹等)を事業の用に供するため直接要した費用の額
その他、贈与、交換又は債務の弁済等により他から取得をしたもの
- 取得時におけるその減価償却資産の取得のために通常要する額
- その減価償却資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
注意点としては、減価償却資産の本体価格のみならず、それを事業の用に供するための付随費用も取得価額に含めて使用可能期間にわたって減価償却すべきということであり、この付随費用を購入時の必要経費としてしまうと、購入した年の利益(事業所得)を過少申告したものとして税務調査において指摘されることになります。
5.減価償却資産の耐用年数
⑴ 法定耐用年数
これまでにご説明した「使用可能期間」という用語について、税務上では「法定耐用年数」という用語を用いて、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」という財務省令において統一的に定めています。
統一的に定める理由は、同じ減価償却資産であっても、その企業の利用状況によって現実の使用可能期間はまちまちであるところ、そのような個別事情をいちいち汲んでいては課税の公平性が確保できないからであり、「このような種類の減価償却資産については一律に〇年」というように、国税庁を管轄する財務省が省令という形式で規定し、原則として納税者はそれに定められた耐用年数を用いることが強制されているのです。
例えば、同じ「鉄筋鉄骨コンクリート造の建物」であっても、それが「事務所用」であれば法定耐用年数は50年であるのに対し、「工場用」で塩素などの腐食性を有する物質を取り扱う施設であれば24年というように、その建物の用途に応じて詳細に定められているのが特徴です。
⑵ 中古資産の耐用年数
中古資産を取得して事業の用に供した場合には、その資産の耐用年数は、法定耐用年数ではなく、その事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によることができます。
しかし、現実的には、使用可能期間の見積りは困難であることが多いため、そのような場合に備えて、次の簡便法により算定した年数によることができます。
- 法定耐用年数の全部を経過した資産
法定耐用年数✖20% - 法定耐用年数の一部を経過した資産
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数✖20%
【2.の計算例】
法定耐用年数が30年で、経過年数が10年の中古資産の簡便法による見積耐用年数
- 法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数
30年 - 10年 = 20年 - 経過年数10年の20%に相当する年数
10年 × 20% = 2年 - 耐用年数
20年 + 2年 = 22年
なお、これらの計算により算出した年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合には2年とします。
また、中古資産の耐用年数の算定は、その中古資産を事業の用に供した事業年度においてすることができるものですから、その事業年度において耐用年数の算定をしなかったときは、その後の事業年度において耐用年数の算定をすることができないことに注意が必要です。
⑶ 一括償却資産
取得価額が10万円未満の減価償却資産については、上記のように複数年にわたる減価償却をすることなく、「(事務用)消耗品費」として取得した事業年度において一括で必要経費に計上することが可能です。
また、20万円以上の減価償却資産については、上記のように複数年にわたる減価償却をする必要があります。
それでは、両者の中間に位置する「10万円以上・20万円未満」の減価償却資産については、どのように経費処理すれば良いのでしょうか。
これについては、事業年度ごとに該当する減価償却資産を集計して、3年間(36か月間)で均等償却するという簡便的な取扱いが用意されています。
6.減価償却資産の償却方法
償却方法とは、取得価額を使用可能期間に配分する基準をいいます。
(図1)は、取得価額を10年間で10分の1ずつ均等に必要経費として配分していますが、こういった配分基準を「定額法」といいます。
一方、使用可能期間の前半に必要経費を多めに計上でき、後半にはその分必要経費が少なめになる(定額法よりも必要経費の計上が前倒しできる)ように傾斜配分する基準を「定率法」といいます。
定額法・定率法の選択の可否は、法人(会社組織)と個人事業において異なっています。
⑴ 法人
- 建物・建物附属設備・構築物・ソフトウェア:定額法のみ
- 機械装置・車両運搬具・器具備品:デフォルトは定率法(届出により定額法も可能)
⑵ 個人事業
❶ 建物・建物附属設備・構築物・ソフトウェア:定額法のみ
❷ 機械装置・車両運搬具・器具備品:デフォルトは定額法(届出により定率法も可能)
定額法・定率法ともに、過去の数次の税制改正によって、その減価償却資産の取得時期によって微妙に異なる計算方法を行う必要がありますので注意が必要です。
7.青色申告者の即時償却制度
⑴ 概要
これまで見たように、減価償却という制度は、購入時の事業年度に一時に必要経費とせず、使用可能期間にわたって計画的・規則的に費用配分するという考え方に基づくものです。
しかし、中小企業の設備投資の促進という政策的な考慮から、時限的に取得価額の全額を取得した事業年度に一括で必要経費に計上することができる制度があります。
(2) 主な適用要件
- 青色申告者であること
簿記検定において学習するような複式簿記によって継続記帳して帳簿等を適切に保存していることを前提に、事前に青色申告の承認申請書を税務署に提出して承認を受けている必要があります。
- 中小企業者等であること
資本金の額が1億円以下で常時使用する従業員の数が1,000人以下であるなどの要件を満たす事業者です。 - 30万円未満の減価償却資産を令和4年3月31日までに取得して事業の用に供すること
- 取得価額の合計額が300万円の範囲内で納税者が選択すること
事業年度が1年に満たない場合には300万円を月割按分します。
減価償却資産の合計額が300万円を超える場合には、300万円に収まるように即時償却の適用資産を選択し、適用から漏れたものについては原則どおりの減価償却をすることになります。 - 確定申告書に所定の明細書を添付又は記載をすること
事業の用に供した事業年度において必要経費(損金)に計上するとともに、法人税においては確定申告書に明細書を添付し、所得税については青色申告決算書の減価償却費の明細に適用条文を記載して申告することが必要です。
8.税理士に相談しよう
上記において見た内容に絞っても、次のような様々な判定をしなければならないことがわかります。
- 購入した減価償却資産は、
- 取得時に全額を必要経費にできるのか
- 3年間で均等償却するのか
- 通常どおりの減価償却をすべきか
- 青色申告者の特例の適用対象か
- 本体価格に付随する費用の取得価額の算入は適切か
- 償却方法の選択に誤りはないか(認められる有利な方法の選択を漏らしていないか)
- 法定耐用年数の選択に誤りはないか(中古資産の耐用年数の算定は適切か)
- 減価償却費の計算に誤りはないか(税制改正を適正に反映しているか)
これに加えて、次のような考慮も必要になることがあります。
- 追加で支出した費用が「修繕費」として必要経費に計上して良いか、減価償却資産の追加取得である「資本的支出」と考えて追加で減価償却の対象とすべきか
- 補助金の対象になったが、税法特有の会計処理である「圧縮記帳」をすべきか
- 購入時に消費税を加算して支払っているが、消費税の処理はどうしたら良いか
このように様々な「減価償却」に関連した疑問を解決するには、税理士の関与を受けることが望ましいといえます。
減価償却自体が会計上・税務上の要請に基づく会計処理であり、税制改正も頻繁で、税務調査において誤りを指摘されると反論の余地が小さい(誰が見ても明らかな誤りである)ことも、事前に税理士の関与を受けることが望ましい要因です。
減価償却関連は、税務調査において指摘を受けると、修正申告の対象となる税額の規模が大きくなる傾向にあり、かつ、その経理処理の適切性によってその企業全体の記帳レベルを推し量ることもできるという性質があることから、税理士による指導を受けることをお勧めします。
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